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【書評】『世界の一流は「休日」に何をしているのか 著 越川慎司』 ~医者こそ読むべき一冊~

『世界の一流は「休日」に何をしているのか』の要約

日本人は「休むこと」が下手な国民なのかもしれません。

昨今語られる、働き方改革は一般業界だけでなく医療界にも押し寄せています。

実際の中身は結局変わらず、なんなら残業代がつかない分、働いているのに自己研鑽扱いされるという、類を見ない大改悪制度となりました。

厚生労働省や医療業界全体として、医師の働き方改革をする気は全くありませんので、自分たちでしっかり体を休める必要があります。

越川慎司氏の書籍『世界の一流は「休日」に何をしているのか』は、国際企業で一流と呼ばれる人たちが休日をどう過ごしているのかに関して解説しています。

今回の記事では、本書の要約とそれを医療界にどう落とし込めるか、というアクションプランも考えながら執筆させていただきます。

皆様の休日の過ごし方に少しでも変化が起こることを期待しております。

こんな先生にオススメ

1. 後期研修医

2. 専門医を取得した先生

3. 管理職の先生方


休日の考え方や使い方は仕事の効率だけでなく、人生の豊かさをも決める重要な要素であることがわかっていただけると思います。

『世界の一流は「休日」に何をしているのか 著 越川慎司』の要約

ジョブ型とメンバーシップ型の評価制度

ジョブ型の評価制度とは、スキルや成果を基準とした評価制度です。欧米やグローバル企業では一般的に取り入れられています。一方で日本企業の人事評価は勤続年数や勤務態度、役割などが基準になるメンバーシップ型が中心です。

日本ではメンバーシップ型の評価制度が強く根付いています。いくら働き方改革といっても、それを言ってくる上司が「みんな休んでいいよ(俺は働くけど)」という空気で過ごしていますので、そんな状況で部下は休めるわけがありません。

この背景には、「働く人と働く時間を増やせば、売り上げが上がる」という労働集約型の構造と、たくさん働けばたくさん儲かる→休むと会社の成長に貢献しないから、サボっている みたいな発想になってしまっています。

ただ、書籍の中で著者は、ご自身の会社で実践している制度を紹介しています。
「週休三日制」「週30時間労働」「オフィスなし」「専業禁止(副業必須)」といった仕組みを実現しており、8年連続増益を達成しています。
これは、休日を確保しても経営は良くなるという事実を示しています。

さて、これを医療現場に落とし込めるでしょうか?

まずオフィス無し、これは難しいかもしれません。診察室や手術室、検査室は病院勤務医にとっては必須です。

しかしそれ以外の部分については、やりようはありそうです。

例えばメンバーシップ型の評価制度、これは医療現場の収益構造から考えると非常にいびつです。

医療現場では基本的に医師が行う診断治療行為に対して保険点数が発生し、そこから収益が発生する仕組みになっています。その辺の一般企業よりも、実ははるかに収益に直結する働き方なのです。
ジョブ型評価であれば、例えば外来診療なら1日の外来枠で何人さばけるか、というところが明確な評価基準になります。
ここをメンバーシップ型で行くと、中堅の先生が吐きそうになりながらねじ込まれた外来をこなす中、教授やほかの立場が上の爺医らがゆるゆると外来を行うという、いびつな構造になるわけです。

外来診療を、定額の固定給の中に組み込むのではなく、歩合制にする(保険診療報酬の何%が医師の報酬)という形にする方がよほど健全な体制だと思います。

中堅(30代)への個人依存傾向を止めよう

日本企業に特有の「個人依存」の傾向があります。

個人依存とは、その人が休んでしまうと、仕事が回らなくなる という現象

これは結局、その人がどんどん休めなくなることで疲弊し、ひいてはチーム全体の生産性も落ちてしまう、という結果になります。

この悪循環は30台の中間管理職に集中することが多いため、この世代が一番休めない状況になっています。一番休んでもらわないといけないのはこの世代の人たちなのに。

そこで著者は、年齢層によって休日を取る優先順位を変える方法を提唱しています。
一番責任が重く、課題も多い30代から休みをとり始め、40代、20代と50代が最後として休むというステップです。
また著者が関わる多くの企業の管理職には「年間で何日以上休まないと評価が下がる」というルールを導入することで、休日を取りやすくされています。

では医療現場に落とし込んでみましょう。

医師の世界においても、30代から40代に負担が集中していることは想像に難くないと思います。

結局この世代の方々が現場を支えているといっても過言ではありません。

悲しい話ですが、どんな人間にも肉体的・精神的な全盛期があり、当然年齢を重ねれば衰えるのです。

まずは30-40代の世代から積極的に休んでいただくことが重要です。

また50代以上の医師が最前線に立って治療し続けるというのも、無理のある話です。

特にカテーテル治療や内視鏡治療、手術においては、肉体的な衰えを超人的な先生方が技術と気合でカバーしている様子が散見されますが、そもそも”部長”などといった管理職に上がった人間が、現場で戦っている構造自体がおかしな話です。
長となれば、基本的には組織のマネジメントを第一に据えるのが、経営母体のあるべき姿です。

しかし日本の医療現場では、そもそも部長が最前線に立つ(もしくは立たざるを得ない)場合が多く、その上会議も増えるため残業代も出ないという最悪の待遇となっています。

まずは部長クラスが現場を離れ、本当にマネジメントという部分に特化して、30-40代が最も生産的に働けるシフトを組む。その穴を埋めるようにベテラン勢がちょこちょこ入る。

おそらくこれくらいの意識改革をしない限り、どんどんキツい診療科に人員は入らなくなるでしょう。


休日を人生の主役にする

本書によれば国際的なエグゼクティブ達は、休日こそが人生の主役である、と考えています。

日本とは真逆の考え方ですよね。日本人の思考としては

「仕事がだめになったら自分の人生は終わり」

「休めるときは来たら休もう」

「ワークライフバランスをどうとるか」

このように考えがちです。

しかし海外のエグゼクティブは違うようです。

彼らは

「疲れる前に休む」

「なんなら休日のために仕事をしている」

「ワークライフハーモニー(仕事と生活の調和)を実現する」

これを軸に生きています。ワークライフバランスとなると、両者を天秤にかけたような対立構造にとらえてしまいます。(私もそうでした)しかし、ワークライフハーモニーの概念では、仕事が個人を成長させ、休日の生活が仕事のパフォーマンス向上に役立つ、というように考えられています。

医療業界に落とし込んでみましょう。

まず土日休める医者の方が圧倒的に少ないと言う大前提があります。これはある程度仕方ないとして、医者の世界では休日にも仕事をするという慣習が非常に強く残っています。

「自分の入院患者がいるのに土日は見に来ないのか」
「今度の症例検討会、地方会で発表してね。うん、土曜のやつ」
「発表の準備?自己研鑽だろ」

仕事と生活の調和というより、「仕事による人生の侵食」です。

ただ昭和世代の先生方は、医者=生き方 という世代ですので、それが正しいのでしょう。

平成世代はどちらかというと、医者=労働 という人が多いです。

天動説と地動説みたいなもので、両者が分かち合うことはあり得ません。

天動説を唱える人間が全員死に絶えてから地動説が認められたように、この働き方の意識改革も我々が現役のうちは難しいでしょう。

医局員の先生方に残された道は少なく

・先見の明を持った稀有な医局を探す
・医局を離れて自由な働き方(フリーランス)を探す
・独立する

くらいしかありません。
今の現状で上に不平不満を垂れても、何も変わらないでしょう。異教徒として見下されるのがオチです。

本書の理論を借りると、人生を充実させるのは休日です。そもそも休日を得られない働き方ではやっていけません。いつか必ず倒れます。倒れなくても、充実した人生とは程遠いと言えるでしょう。

『世界の一流は「休日」に何をしているのか 著 越川慎司』のまとめ

本書では、海外のエグゼクティブがどんな休日の過ごし方をしているか、またその具体的なルーティンもまとめられています。

  • 土日の使い分け
  • 休日に取り組むべき新習慣
  • 戦略的睡眠の取り方

など、今の自分の生活にそのまま取り入れることができるTipsがまとまっており、ややジャンルの違う世界と言えども、医療界が本気で考えなければいけない問題を突きつけられる一冊となっています。

自分自身のライフスタイルとキャリアについて悩む勤務医にとっては、本書を読み、自信のライフスタイルについて考え直すきっかけとなる書籍です。

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マイナー科から訪問診療へ転職された先生の体験談です。

他には脳外科専門医の先生の転職体験談もあります。

手前味噌ですが私もドロップアウトから転職した身です。おかげで人生を充実されるための、そもそも休日を手に入れることが出来ました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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