現在、クリニックで総合診療及び訪問診療に携わっている僕ですが、医局制度、専門医制度からしれっと抜けておりますので、医者の”専門性を極め、ペーパー書いて教授へ〜”みたいなのを王道とする考えでは、完全にドロップアウトした人間ということになります。
最近同年代でも医局に属さない、フリーター医でいく、美容にいくなど、Twitterの医クラ界隈ではよく見かけますが、リアルな友達の中では全然いませんね。
そこに関しては何の後悔もないですが、同じパターンの人がいないため、今後の展望のパターンも知らないという状態ですから、とりあえず色んな医師のキャリア系著作を読み漁っております。
現状はいわゆる在宅医になるので、普通に考えれば行き着く先は、開業と言うのがセオリーなのかなと思っていました。開業ノウハウ系の本は数多見つかりますが、正直ほんまかいなと懐疑的でした。
閉院してるところだってみたことあるし、上手いこと言うとるなって感じですね。
そこで失敗パターンを知っておくと言うのは非常に重要と思い、本書を手に取りました。
『開業医やってみたけどダメでした 勤務医から開業医になっていまは フリーターです』著 大友まさと
著者の大友先生は、当初から開業を視野に入れて全身管理なども含めたスキル習得のため、麻酔科に進み、その後はより臨床スキルを磨くため、某大手病院グループに転職されるなど、かなり準備をされて開業に踏み切られております。
そんな著者の実体験から書かれている本で、考え方から具体的に取られた方法、これがよくなかったという反省まで非常に参考になりました。
そこで、この記事では、特に参考になった点を3ポイントピックアップしてご紹介します。
仮に前向きに開業を考えておられる先生でも、まず「失敗から学ぶ」ことは良い面もあると思います。
- 開業を検討されている先生
- 将来は町医者に、、と考えている若手医師・医学生
- 先の展望が見えない泥っぽ医
当てはまる方はおすすめです!
『開業医やってみたけどダメでした』の概要
【概要】
著者:大友まさと
出版社:Kindle出版
出版年月日:2020/10/25
ページ数:372ページ
冒頭でも紹介したように、著者の大友先生は、当初から開業を視野に入れたスキル習得のため、かなり準備をされて開業に踏み切られております。
開業される場所や時期の選定、見込みの患者数などしっかり考えておられたように感じましたが、何がいけなかったのか、どういうギャップがあったのかという点が非常に参考になりました。
医院は教会に似ている
医院は地域に根ざした、地域に開かれたという意味で教会に似ている
本書で繰り返し出てくるのは、地域に開かれ、溶け込まないと集患は困難であること、また大病院と開業医における医療のギャップです。
当然ではありますが、地域医療という枠組みに入っていき、かかりつけ医になって定期的に通院してもらうのが、集患の王道になります。安定するまでは、そして地域の人々に認知してもらうには、盆踊りにでも何にでも参加して知ってもらう必要があります。
また、そうやって親しみやすくなり、クリニックのファンになってもらう必要があります。
とはいえ親しみやすさ、敷居の低さがゆえに、ファンの民度も落ちるわけです。
金を貸すように要求したり、眠剤の大量処方を求めたり、理不尽な要求はつきものです。
生真面目にやればやるほど疲れます
クレームも来ましたが、要望を聞くことだけが必ずしもよい医療とは思えませんでした。
至極当然の医療行為をしていても、常識が通じない人間は数多く存在します。
僕個人の体感では、大病院からクリニックに移ると、軽く10倍はそういう人間に当たります。
医師として真面目な人ほど、患者が求めてくる要求とのジレンマに苦しむことは多いと思います。
適当な爺医が心不全、腎不全バリバリの高齢者にNSAIDs出しまくりとか、何回目撃したかわかりませんが、
そういう医師の方がファンが多いのが現実です。
医師は職人、開業医は経営者
著者も、そして大多数の医師が、医師としてのスキルを磨くことが正義という風潮があります。もちろんスキルは必要ですし、それ無くして患者に不利益が出ることはプロとしていかがなものかと僕も思います。
しかし、クリニックを運営していくという状況において、医師としての実力があれば、どうにかなるというのは非常に危険な考えです。
『開業医は経営者である』という考えのもと行動する必要があります。
勤務医をしていると、どうしてもこの考えが欠落してしまい、いつも通りの医療をしていれば勝手に報酬が出てくるように錯覚してしまいます。
しかし本来、お金を得る行為というのは、モノやサービスを提供する際に必ず収益化・マネタイズするという過程が必要です。医師としての診察・治療行為→サービスの提供ですが、勤務医だとそれだけしていれば給料って入ってくるわけです。(もちろんレセプト提出とかはありますが)
しかし開業医は、そもそもどのサービスを提供するかという選択、どうやって収益化し、利益を出すかという点を考えなくてはなりません。
駅前各科コンビニ医院をやろう
皮膚科はうまく事が進んだ
耳鼻科は成功しました
小児科の赤字で吐き出しました
著者もどうにかして集患、収益を出そうと駅前各科コンビニ医院を計画されました。
皮膚科は顕微鏡のみの導入で、それでもかなりの集患ができ、コストパフォーマンスの良い選択
耳鼻科もかなりの好評でしたが、専門医へのペイと最初の機材投資で、やや渋い
小児科は好評でも、そもそも診療報酬が少ないため赤字
といった感じです。
各科の先生方、また著者の先生がベストな診療行為を行なっても、それが収益化に繋がるわけではないのです。
院長は経営者であり、どのように動くべきだったか、経営者として大事な『4つ』のポイントについても、具体例を用いて、本書の中で解説されています。
フリーター医となってから、今後の予測
15年でクリニックは閉院され、現在はフリーター医として働かれる著者ですが、
やはりコロナをきっかけに、医師バイト市場の相場も低下傾向にあると感じておられます。
ドクター神話が崩れます
開業医になれば儲かるという開業医神話だけでなく、
医者になれば安泰だというドクター神話も、すでに崩壊が始まっていると捉えるべきでしょう。
本書内では、さほど影響を受けていないジャンルとして、在宅診療と精神科が挙げられています。
一応そこに携わっている身としては一安心ですが、正直やってる側としては
『面白くなくて誰もやってないから、余ってるだけ』としか思えません。
そして先日、医師が次々に殺される悲しい事件が相次ぎましたが、それは精神科のクリニックと、在宅医でした。
崩れかかっているジャンルで医者を続けるか
需要はあるけど死ぬかもしれないジャンルで働くか
この二択を迫られているような気がしてなりません。あとは自由診療ですかね。
開業医とは経営、商売である
医師としてのスキルを真面目に磨き、真面目な医療行為を行なっていてもうまくいかない開業医の例が紹介されているが本書です。
これから開業を考えておられた方は、一度読んでみてはいかがでしょうか。
勤務医としての生き方で参考になった書籍です。↓