お疲れ様です。たつまるです。
とある急性期の診療科をドロップアウトして1年くらい経ちました。
とある急性期の診療科で適応障害、鬱になってから、気付けば1年くらい経過しました。
— 流浪医たつまる (@tatsu5rurouni) August 7, 2022
縁あってとある診療所に割と高待遇で雇ってもらい、家族との時間も取れるようになりました。
セロトニン的幸福は満たされたはずですが、溢れ出る「これじゃない」感。
これがドーパミンへの依存かもしれません。
ドロップアウトした医者ってどこに行くのか、気になりますよね?
一例として自分の経験した状況をご報告しようと思います。
自らの備忘録としても書いてますので感情的な面も多いかもしれませんが、ご了承ください。
ドロップアウトするまで
3年目医師 半年で鬱に
学生時代から憧れていた診療科に意気揚々と飛び込んだものの、毎日のオンコール(オフコールは無し)
プレッシャー、3年目という一番声をかけやすい存在への大量のコンサルト・コール
みるみるうちに疲弊してきました。学生時代は体育会系に所属し、体力自慢というかそれだけが唯一の取り柄みたいなもんで、いけるやろと甘く見ていました。
そんなもん研修医のうちに見極めとけよ!って声が聞こえてきそうですが、おっしゃる通り、ぐうの音も出ません。自分の力量を見極められなかった、自業自得だと反省しています。
まあ忙しいことは覚悟してましたが、声かけやすいからか家にいるのにしょうもないことで、病棟からずーっとコールあるのはホンマに辛かったです。
専攻医の生活は半年くらいで、希死念慮バリバリになり、妻に気付かれて止められて、休職するに至りました。
身をもって経験したことで、反面教師にしていただきたいのですが、
・身体的な体力は、全くあてにならない
・学問を楽しむには、余裕(体力、時間、経済力的に)が必要
ということです。
体力には自信がありました。どんくらいかは難しいですが、シャトルランでいうたら120回くらいでしょうか。
ただ当たり前ですが、病院で走ることはないし、全然別のキツさです。
起き続けるとか、頭を回転し続けるとか、そういう感じです。
「医者は体が資本だから」という理由で、体育会系の部活が跋扈していた母校でしたが、そんなに役に立たないなと今になって思います。
また、あくまで仕事はマラソンみたいなもので、どんだけ好きでも続けられない状況になれば、好きなものも嫌いになってしまします。
もともと自分が専攻科に選んだジャンルは、本当に興味深くて、難しいけどわかったらすごく楽しい!と学生時代は好んで勉強していました。
今では見ただけで吐き気がするくらいトラウマです。
一つの学問的興味にトラウマを抱くというのは、比較的知的欲求の強い医師の皆様にとっては、結構辛い体験になると思います。
学問的興味だけでは乗り越えられない現実がありました。
休職
妻に止めてもらって死なずに済んだ僕ですが、とりあえず休まないといけないので
上司に報告、休職届を出すに至りました。
誤解なきよう申し上げますが、上司はとてもいい人で、僕の申し出も優しく対応いただき、できるだけ有利なように負担のないように事を運んでくださりました。
ただスーパーマン過ぎました。めちゃくちゃ仕事のできる方で、それがゆえに出来ない、期待に答えられない自分がもどかしく、またハードワークが当たり前の価値観が形成されていき、追い込まれていったのかなと今になって思います。
あと妻に止めてもらって気づいた事ですが、
家族は誰ひとりとして、僕が急性期の医者であることを喜んでいませんでした。
妻も、親も、ただ心配していました。満足しているのは、僕だけでした。
・誰かを心配させる働き方は、続かない
深く反省し、休職期間はだらけながらも家族との時間を優先しました。
医局を辞める
ドロップアウトの最大障壁は間違いなくここです。
後述しますが、転職エージェントさんとの相談では、
円満に医局を止めようとすると半年から1年くらいかかるとのことでした。
その時は退職代行ならぬ ”退局代行” という存在も出てきておりまして、それは使うとどうですかと質問してみましたが、
狭い業界なので、正直おすすめできません というご回答でした。
一方、僕の場合は、精神科を受診して診断書も作成されていたので、
案外すんなりと受け入れられました。
「どうしたら今回のことを防げたかな」と医局長や教授直々にお話もあり、良い医局に所属させてもらってたんかなと、特に悪い思いは抱きませんでした。恐らく、大学院や雑務など不遇な対応にあう前に辞めたからかもしれませんが、、
僕のドロップアウトは、ひとえに自分自身への認識の甘さと、構造的な問題(マンパワー不足)だと思います。
・マンパワーこそ正義
ハードワークには人員が絶対的に必要ですし、少数精鋭を育てるというのは、机上の空論に近いなと実感しました。これは今後、もし自分が他人を指導したり、雇う側になった時に忘れないでおこうと決めています。
何はともあれ専門医プログラムを離脱しました。これにてドロップアウト完了です。
転職活動
転職エージェントに登録
休職をした後、真っ先に行ったことは転職エージェントへの登録でした。
民間医局、マイナビドクター、医師バイトドットコム、エムスリーキャリア、美容医師求人ガイド
などに登録いたしました。
お世話になったエムスリーキャリア↓ 常勤先、定期非常勤探しに使ってます。
医師バイトドットコム↓ スポットバイト探しに向いてます。
エージェントの方にはもちろんベテラン〜新人もおられますが、
基本的には複数人で(非常勤担当、常勤担当など)担当されるため、どこかでベテランの非常に話のわかってくださる方に会えました。
転職会社は、求人募集を出している側から掲載料金と、多額の仲介手数料をとっておられますので、普通に考えたら、自力で見つけた方が、病院とこちら双方にWin-Winと考えられます。
↓ この著者先生は自力で探すのを徹底されておりました。
僕は自力のコネクションで探すのも、転職会社を利用するのも一長一短かなと思っているので、ご自身の状況に合わせて使い分けるのがいいと思います。
自力で探すのは、余計なマージンを取られないという利点があり、そのマージン分をこちらの給与として上乗せ交渉できるかもという利点があります。
一方で、面接の際に同行いただいたり、履歴書の手配、応募先への連絡や条件交渉、日取りの調整など、
ぶっちゃけ面倒くさくて医者があまり慣れていない就職活動の手伝いをしてくれるので、メリットは大きいかなと思います。
もちろん失礼ながら、エージェントの方にも当たり外れはあり、僕は30代後半の穏やかな男性エージェントがついてくれて、非常に和やかに話が進みましたが、別の会社では若い方であんまり話も弾まず、気まずい空気がありました。こればっかりは運ですが。
泥っぽ3年目の選択肢とは
別の専門医プログラムに乗り換えるのかどうかという点は、転職の一つの鍵となるようです。
内科
一番メジャーで潰しが効くであろうと考えられましたが、J -Oslerなど地獄の制度に苦しむ先輩、同期を見てきたため、違うなと感じました。
精神科
転科選択肢としてはトップクラスの多さだと、転職エージェントの方はおっしゃってました。
しかしあまり興味が持てずパス
麻酔科
精神科と同じく、転科も多いそうです。
しかし突然の呼び出し、緊急オペにはもう懲り懲りでしたのでパス
産業医
そもそも産業医の資格まだなし。(取りたくても講座がいっぱい!)
しかし、いずれはやってみたいジャンルですね。
訪問診療
最近話題の訪問診療、これから来ると言われてますが、若手医師はなかなか参入がない状況。
とりあえず病院見学してみようということで、
診療科を決めずとも、とりあえず一般内科として働いてみませんか?といってくださる
病院は非常に多かったです。何件か病院見学に行きました。
医局制度では知ることもなかった病院も多くあり、しかも待遇も悪くないという。
こんな場所があるって誰も教えてくれんかった。
視野を広げるという点でも、転職会社への登録はありかなと思いました。
転職先に選んだのはクリニック
総合診療+訪問診療
結局僕は、元々コネのあったクリニックにも相談し、そこで雇ってもらうことになりました。
リハビリがてら徐々にバイトをして、徐々に勤務日数を増やして、という感じでした。
決め手としては、
・元々当直、残業しまくりで稼いでいた給料を保証してもらえたこと
・一旦、急性期医療や技術がいる場所を離れてみたかった
・ブルーオーシャンと噂の訪問診療に飛び込んでみよう
という思いが浮かんだからです。
元々、体育会系!外科系!みたいな思考の僕でしたから、総合診療の診断学はなかなか難しく、現在も日々悩みながら、参考書を頼りに生きながらえる日々です。
また訪問診療に関しては、ある程度の手技は安全に行えるようになりました。
気切カニューレの交換やPEG交換など、ある程度ヒヤヒヤしながらの交換でしたが、作り方やリカバリー方法、解剖学的知識があるとなんとか怖さも和らいできたので、ここでは急性期での経験が役立ってくれたかなと思います。
クリニックでの仕事:在宅医療はずーっと難しいままですが、そんな僕が頼りにしている書籍はこちら↓
訪問診療のことを紹介している記事はこちら↓
若くしてクリニックで働くというのはあまり無いかと思いますので良いこと悪いことをまとめます。
クリニックで働く利点
外来を捌くスピードが上がる
気づけば15人待ちみたいになるので、とにかく時間感覚、診療をスピーディに終えることが大事になります。
とはいえ雑にしていてはクレームになりますし、重要な訴えを見逃しかねないので、
「患者さんの目的は何なのか」:薬が欲しいだけ、検査してほしい、話を聞いてほしい etc.
「外観:元気かどうか 普段通りかどうか」
に着目するようになりました。目的はある程度、問診票から把握して、外観は待合の時点で看護師さんや受付の事務さんに見てもらい、ちょっと具合悪そうとなると一声かけてもらっています。
律速段階になる血液検査や画像検査を先に済ませるというのを、研修医の時の救急外来や専攻医の時の外来より格段に意識するようになりました。
点数を意識できる
なかなか大病院で働いていると意識できなかった点ですが、クリニックではどんだけ点数を稼げるかは重要なポイントです。泥っぽ医はこれを意識する必要があるなと常々感じます。
雇い主にとって、費用対効果の良い(人件費より大幅に保険点数を生み出す、新たな患者さんを呼び込む)駒になることが重要と思います。
これを意識できるようになったことは、これから長く続くであろう勤務医人生にはプラスであったと思います。
当直がない、入院患者もいない
最高、家で眠れる。
クリニックで働いてて辛い点
達成感はない
給料や当直がないこと、ちゃんと休みがあることは素晴らしい点ですが、達成感は正直ありません。
何かを成し遂げた感覚や、アドレナリンが溢れるというか、血湧き肉躍る感覚は一ミリもありません。
ブラック外科専攻医だった頃に比べて、ドロップアウトした今は確かに時間はできた。平日は家族とご飯食べて、一緒に寝られるようになった。休日は家族とお出かけしたり、たまに友達とご飯行ったり。セロトニン的幸福が満たされていて非常に心地よい。1
— 流浪医たつまる (@tatsu5rurouni) July 25, 2022
ただ「あの手技が出来る」「この手術を完遂」といった、非日常達成感を感じる瞬間はない。ドーパミン的幸福を感じなくなっている。優先順位はセロトニン的幸福らしいが、物足りなさは否めない。この感覚は依存によるものらしいが、やっぱ枯れたのかな、とも思う。ドロップもいいことばかりじゃない2
— 流浪医たつまる (@tatsu5rurouni) July 25, 2022
これはドーパミン的幸福に依存した状態だなと自分でも分かっているのですが、物足りなさを感じざるを得ません。
健やかに、家族との時間を大事にして、セロトニン的幸福及びオキシトシン的幸福を満たすことが第一優先であるというのは以下の本で学びました。
しかし、ドーパミンが枯れてても面白くないのが人生なのかなと感じています。
命の危険
基幹病院からクリニックに場を移すと、「やばい患者」に遭遇する確率は飛躍的に上昇します。
クリニックには守衛さんも男手もいません。
暴言、暴力行為などが怒っても、誰かに頼ることはできず(職員さんはほとんど女性です)
自分やスタッフさんの身は、自分自身で守るしかありません。
昨今は訪問診療の医師が銃殺されたり、クリニックに放火されたり、外来で刺されたり、はたまた元総理が凶弾に倒れるなど
いわゆる「無敵の人」による犯罪が相次いでいます。
医療側がどれだけ優しさを出そうとも、頭のネジの飛んだ連中が強行に及んではどうしようもありません。
今どき、診療所・クリニックという場所は全く安全では無いなとひしひしと感じます。
訪問診療なんて尚更です。99%のご家庭は非常に温和で、暖かく迎え入れてくださりますが、
残り1%でえげつないところがあります。
医療というのは究極の to C ビジネスですが、何がクソって応召義務のせいで C を選べないことにあるとつくづく思います。
これからクリニックで働くことを考えておられる先生や、開業を考えておられる先生は、特に立地にはお気をつけください。
地域性、民度の格差は確実に存在します。
今後について
これからは本当に自分向けの備忘録です。目標を忘れないために書きます。
食うには困らない
今の状況は、生活は安定しますが正直何も楽しくありません。
ドロップアウトした得た最大の強みは
「いつでも辞めたれ」という開き直りと
「最悪でも飯は食える」という確信です。
バイトも色々しました。3年目でしたが医局と関係ない常勤先も見つかりました。本当にどうとでもなると思います。
お金の心配が無かったら、やりたいことをやってみる
これは「夢をかなえるゾウ」で学んだことです↓ ガネーシャのキャラめっちゃ好き。
医業の中のジャンルでもそうですし、医業以外もやりたいことやったろうと思ってきました。
所詮僕は泥っぽ医、やりたいことだけして邪道を進んでやろうと思います。
まずは経済的基盤を
とはいえ僕は家庭もありますので、経済的な安定が優先です。
とりあえず後、2年くらいは大人しくこのまま働いて資産形成に励もうと思います。
副業収入300万以下は雑所得という、なんともいえない逆風は吹いていますが、今年度中に法人設立を目標に頑張ります。
最後に
参考にしてくださいなんて言いません、反面教師にしてください。
そしてもし専攻医生活で潰れそうになってる方がいたら、こんな感じなんだと
安心材料にしてもらえると幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。